自分の剣を置く
戦士として生きるのか、魔法使いなのか、盗賊、商人、踊り子、最終目標は勇者や魔法戦士、あるいは賢者。
子供の頃(厨二病まで)は、誰もが世界を変えられると思っているし、ケーキ屋でもパン屋でも「世界的に名の知れた」という但書が付くと思っている。
実は自分は、大したことがなくて、大して稼ぐ事もできず、芸能人と結婚できる訳でもなく、スーパーで割引のシールが貼られるのを待って刺身を買う人生だと理解するのに、そこから10年はかかる。
ジョブチェンジをすれば、或いは自分の目指す世界の大きさを変えれば、そこそこ幸せに暮らしていけることに、なかなか気づかない。
壁にギターがかかっている。
正確には、私がギターを壁に掛けた。
あれは、私の剣だった。
ギターの講師をし、バンドをやってきた。
あの剣で戦ってきたのだ。
今は、ジョブチェンジをして、あの剣はもう使わない。この先ももう使う事は無い。
それでも、捨てる事ができない。
いつまでも、あの剣を携えた自分でいた事をアピールし続けたいのだろう。
誰に? 多分、自分に。
別のジョブに転換した後も、戦えた自分を思い出して頑張り続けるために。
定年退職した後もジョブチェンジができない人が多い。
もう効力を持たない地位や肩書きの剣を、いつまでも両手に持ったまま、他の剣を持とうとしない。
家庭の中において、有効なジョブは穏やかな夫や物わかりの良い父であり、君臨するスキルや統率力は要らない。むしろ、邪魔。
ジョブチェンジできないまま、今いる世界で無能な邪魔者として一生終えるのか?
あなたの剣ではもう戦えない。
手放さないと違う剣は持てない。
今持っている剣を置こう。
新しい世界で生きるために、勇気をもって。